マシュマ浪漫

私はこの地に引き越してもう一年になる

周りの環境が一変したが 私の生活のリズムは変わっていない  

朝早くから庭で体操をし、この地の空気の香りにも馴れ 思いっきり深呼吸をした 

私の足に纏わりついているのは愛犬ウイリーだ

ウイリーもまた日課のように私に近づいている

「お前は庭で遊び放題できるじゃないか そうかそうか よしよし そりゃ 遊び相手がいないと寂しいな」とウイリーと じゃれあった

私は汗ばんだ体をシャワーで洗い流し

サッパリしたところで 朝食の準備をする

とはいっても パンにチーズをのせ 珈琲を飲む程度のものだ

テレビは勿論つけている ニュースによって色々な情報を得るためだ

私はニュースを聞きながら作業服を着ている

すると着信音が鳴動した

「わかった すぐ行くよ」

私は誰もいないリビングにむかって 
玄関から

「いってくるよ」と小声で言った


車の横で待っている男が私に挨拶をし


私も「おはよう」と返事した


それきりその男とは 工場に着くまでは終始無言である

私は広い工場の裏辺りで言った

「この辺りで降ろしてくれ」

「今日はいったい何をされるおつもりですか?」

と男が聞く


「ああ 草引きでもしようかなと思ってね」

「そのようなことは私どもにお申し付け下さい」

「いやいや 構わんよ 私は好きでやるんだから それより 午後から大切な客人がくる 空港まで迎えに行くのに その車に埃がついていては失礼だからね 磨いてきなさい」

そして後部座席のドアを運転手に開けさせた

「また2時間程で戻って来てくれたまえ」

「かしこまりました」


私は2019年製黒のベントレーコンチネンタルGTを見送りながら

3年前の冬のことを 思い出していた 


当時私は収入が乏しく 贅沢なんてできる程ではなかった だが私の生活を一変させた出来事が起こった

たった1枚の宝くじによって…

私は一夜にして億万長者の仲間に入ったのだ

持つことのない大金を手にした私は贅沢のやり方がわからなかった だから派手に車を買ったり

豪遊することもなかった私は 金を捨てる気持ちで 色々な店を出店した 

ところが何をやっても

売り上げが上がり 金が減っていくどころか みるみる増えていくではないか
そうお金は私を追いかけてくるのだ 私はありすぎるお金から逃げるように 親戚 や息子たちに店を手放した 

そして日本を離れこのマレーシアに移り住んだのだ


一部の資金でこの地に住むこととなり

何もしないのは体が訛る私は夫婦で小さなパン屋を経営した  ところが1種類のパンだけ跳ぶように売れた 世界中に注目されるパンとなった 私はその喜んでくれているパンを皆様にも もっと味わって欲しいとの一心で工場を建設した 気がつけば お金が私に近づいていた もうその頃の私は来るものも拒まずの意識にかわっていた 

【私に付いてきたければくるがよい】と…

私はそんなことを考えながら草引きをしていた

草むしりが終わり 工場内のシャワールームで汗を流し 昼から客人と会うため イタリア製キートンのスーツに着替えた


客人に工場内を見学してもらい 
応接室(とはいっても和室だが)で話をした


客人は すぐ出国するため あまり長く話すことができなかったが 有意義な時間だった

私は会社に置いてある車を空港まで客人をおくった 客人は満足した表情で「謝謝」と言った


私はそのまま家に帰ることにした

空港から車で30分程走った所に私の家がある 私の敷地の入り口には大きな門扉がある 警備のものが門扉を開け敬礼をして待っている 車を一旦停車しウインドウを開け 「ご苦労様」と私は労いの言葉を忘れない

真っ赤なランボルギーニのエンジン音にいち早く気がついていたのか 愛犬ウイリーが身体中くねらせて私を出迎えてくれた 


屋敷までゆっくり車で走って1分かかる

そこまでウイリーと並走した

私は車を降り 屋敷に入った リビングに向かい リビングにあるカーテンが風で靡いていた 窓が空いている
窓の外を出てみると プールサイドにビキニ姿の妻がいた 

リクライニングチェアに寝転がっていた妻は上半身を少しの浮かせ

「あら おかえりなさい 今日は早いのね」と


GUCCIのサングラスを外し笑顔で話してくれた 

つばの広い帽子をかぶっているせいか 上品で優雅に見えた


妻の両サイドには筋骨隆々のビキニパンツをはいた男二人が立っている この男たちが妻を守るボディーガードだ 

妻は不適な笑みを浮かべ 横に飲みかけのトロピカルジュースを飲み干した 

私は嫌な予感がした 動物的 感が作動したのだ

妻は喉を潤しボディーガードに言葉を発した

「あなたたちの報酬は  35億…」

「やっておしまい」と号令を出した

私はすぐさま反応して玄関へ逃げ ドアを開けた

するとウイリーが私に牙を向け唸っているではないか 

私は玄関の扉を慌てて閉め 

私は地下に通じる階段を逃げ場として選択した 

そこは私しか入ることの出来ない
セキュリティコレクションルームだからだ いや正確には今日  

天津から来た爛漫ちゃんは知っている

この爛漫ちゃんは優秀な頭脳の持ち主だ

この女は私のセキュリティを 管理していて信頼のおける女だ 

今日彼女が私に訪ねて来たのは新しいセキュリティシステムを刷新するにあたっての話をした 

その時私のコード12桁を彼女に教えた あと数時間で新しいコードが完成する

だから私のコードを知っているのは

天津からきた らんまん ちゃんだけだ!

【ここなら安心だ 警察に連絡をしなければ】

私は携帯電話を胸ポケットから取り出した


すると同時にオースティン・マホーンのダーティワークの着信音が鳴った  

この着信音は妻からだ

私は唾を飲み込み 電話に出た

「あなた~ おとなしく でていらっしぁあい」


このゆっくりとした口調の裏には毒針を含む言葉だった

「騙したな!お前たちは牢獄に入ってもらうからな!覚悟しておれ!」


【だいたいなんだ!あの男どもは!筋肉もりもりで おまけになんだ あのビキニは!ビキニから溢れんばかりのもっこり  あ~きにくわん!】


「あら あなたの方こそ覚悟はできてるの?」

「な、何を言っている 強がりはよせ ちえみ!」

あなたのセキュリティコード 天津からきた爛漫ちゃんに教えてもらったの」

「なに!お前とあの娘とは何の接点もないはずだ!」

「うふふふ 買収したの  35億  で」

そして通話が切れたと同時に開かない筈であった

扉が開いた

うぃいいい~んと…

薄布地のブルゾンを羽織ったちえみと

両脇にはあのマッチョがいた

「観念しなさいなっ」


と3人ともゴーストバスターズのような(かなり昔の映画)掃除機を背負っている 


 私の何もかもを吸いとるつもりだ

あの強力な掃除機から逃れる術はない


  せめて せめて  せめて!


私は来月楽しみにしていたキャリーのSS席のコンサートチケットだけは死守するのだ!


ああん!3人とも1度に私を攻めないで~

ああああおあああぉぉぉぉぉ…


     ぱみゅぱみゅうううぅぅ…



 



 

「おいっ!起きろ!じゃまやっつうの!」


「う、ううぅぅ」


けたたましく鳴り響く吸引機の音

ああ やめろ!やめてくれ!

これは吸わないでくれええぇ

「やかましい!はよ目を覚ませ!」


はっ!

「お、お前なにしとんねん!」


「お前こそ 邪魔よ!幸せそうな面で寝やがって!」


「あんたの手に持ってる宝くじもごみじゃあ 何ゆめみとんねん!吸いとったる!」


や、やめろおぉぉ!


すぽっ


確かに聞こえた


わしの手にあの宝くじがない!


吸い込まれた!


わああああ わしの当たりの200円があ!


夢なら覚めてくれえぇぇ