ひらひら蝶に舞う

      朝カーラジオで鶴瓶

  「買わない理由はないやろ」と言っていた

  ハロウィンジャンボ宝くじのコマーシャルだ

    私は心の中で「そうだ そうだ」

  

  だが私はくいしばる歯とハンドルを強く握った

  そう私の家は貧しく宝くじを買う余裕もない

  私の給料では到底買えるものでもなかったからだ

  私は不甲斐なさから気持ちが落ち込んだ

「あ~あ 臨時収入でもあればいいのに…」


 

 私は急いで現実に戻り いつものように

いつもの仕事をこなしていた


勿論 ハロウィンジャンボ宝くじの事はすっかり忘れていた


私は運搬会社に勤務しているため 色々な場所へ配達に行く 私は駅前の高級マンションへ配達するため 車を停めた 私が中に入りオートロックの前のドアホンナンバー1010を押した


可愛らしい女の声がした 子供ではない

大人の声だ 察するに 30代半ばかもしれない

可愛らしいの声だが上品な口調だった

  解錠された自動扉が開いた 私は中に入り

エレベーター10階のボタンを押した

私は1010の部屋へと進んだ


たどり着き1010号のドアホンをもう一度押した


あの人の声と年齢、雰囲気は私のイメージとあっているのかが気になった

 そしてドアが開いた 旦那らしき人が出てきた

髭をはやし ラフでグレーのスウェットを着ていた 


   その男と私はお互い目を見開いた


       驚いたのだ


「磯谷さんじゃないですか!どうしてここに?」


     私は笑みをこぼさず言った


この先輩は10年程前 忽然と私の前から姿を消した


    そうちょっとした恨みがある


 「久しぶりじゃないか 元気にしていたか?
お前には連絡をいれたったが 電話も何もかも失ったからな」


先輩はいけしゃあしゃあと話した 私はそんなことよりも貸した5万円を返して欲しかった

だが私の口からは言えない おそらく彼は貸した5万円のことなんて忘れている 私は当時独身だったせいもあり お金はある程度自由に使えた

     そして先輩に5万円を貸した

  もう一度言う 私はこの男に5万円を貸した

 私はこれ以上 平静の表情を保つのに限界がきた

「先輩 もう少し話したかったのですが 仕事が押しているんで」と荷物を手渡し帰ろうとした


「おい ちょっとまて」と先輩が私を呼び止め家のなかへ入って行った

【缶ジュースでも取りにいったのか? そんな子供騙しのようなものなんていらない かねを返せってんだ】

手に持ってきたものはOAK BARKの長財布だった

私に見えるように財布を広げた みた感じ恐らく100万円は入っている 10枚ずつ別けているのだろう ひとくくりに されている この人は私にだけではなく色々な人に金を借りていた 巧みな話術によって 

     そして忽然と姿を消した

どうやったらこんなになるのか だがそんなことはどうでもよい 借りた金が戻ってきさえすれば…


私の頭の中はウルフルズの借金大王の音色が聞こえてきた


♪貸した金返せよ~♪

貸した金返せよ~せよ~せよ~♪♪



「前に借りていた5万円 悪かったな」と10枚くくりの束を取り出した そのうちの5万円を私に差し出すものだと思った


 私はよだれをたらたら流して餌をまってる
ワンちゃん みたいな仕草を出さないようにした


  先輩はひとくくりの10万円を私に差し出した

      利息分だ取っといてくれ」

      私は表情には出さないが 

心の中はワンちゃんが嬉しさのあまりオシッコしてしまう 嬉ション してしまうところだった


    だがすこしばかり ちびった 


 私は「いいんですか」とそれを受け取った


私は次の配達先へいかなけれはならずその場所をたちさった…


 私は車の中で 「よよよよよっしゃゃゃあい!
返すのはあったり前田~!」

  と叫んだ  テンションMAXというやつだ

      (あげあげともいうらしい…)


早速妻に「あ、ママぁ 10万円ゲッチュしたど! 今夜はスッきやの ぎゅーどん たべまくろうぜっ!」と電話を切った

  私はたまらなく嬉しかった 最高だった


       私は早速お札を数えた

「い~ち に~ さ~ん よ~ん 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 」

     何度か まばたきをした

「ん? あ~疲れてんのかな?目が霞んで見える」


    目の体操をして もう一度数えた

 「い~ち に~ さ~ん よ~ん123456789

10」

   顔中にある シワ が眉間に集中した


もう一度数える 今度は慎重に 指をペロペロした

 「い~ち に~ さ~ん よ~ん123456789
10」



         14枚…


よんを過ぎたあたりから 人物が変わっている


 諭吉 諭吉 諭吉 諭吉 英世 英世 英世

 英世 英世 英世 英世 英世 英世 英世

    諭吉が4人 英世が10人…


 私は窓を締め切っている車内で大きく叫んだ


   「だあああぁぁぁぁあああぁぁぁ」


危険を察知したのか私の声で道端で餌を啄む鳩が驚き一斉に不規則な方向で飛んでいった


チャリンコに乗ってるじいさんも ふらついた


散歩しているチワワも失禁しながら私に吠えていた


  それほど叫んだ 喉が潰れたかもしれない

 私の顔も福笑いかっつうくらい  顔が歪んだ

        目に涙が溢れた


        私は色々考えた


先輩のとこにもう一度行き 足りないですと言うのか それとも 先輩にふざけてるのかと文句を言うのか どちらも行けなかった

肩を落とした 障子の紙ように薄ぺらい心に穴が開いた  私は 無 を経験した


ふと我に返ったときは 何件か仕事をこなしていた 無意識にだ  どこをどう通ってきたのか どう客と接したのか わからない


  新しい配達ルートだったこともあったのか

  脳指令部が私を正常な回路に戻してくれた

新しいルートを通るため 右にハンドルを切った

   今までこの道はを通ったことはない

     しばらく走れば四つ角がある

「おや?こんなところにスーパーがある 目立たない場所だが客の出入りは多い」


    コーナーには宝くじ売り場がある 

    何人かが宝くじを購入している

「そんなん 当たらん 当たらん」とディスった

  私はそのスーパーの角を右に折れ 進んだ

つと 私は朝のコマーシャルのことを思いだした

【買わない理由はないやろ ないやろ ないやろ】と…


    私はちょうどお金を持っている


       「少しだけなら…」


     私の天使は止めようとした

    しかし私のデビルマンが一蹴した

  【弱ええくせにでしゃばんじゃねえぞ!】



 私は一周して車を宝くじ売り場の近くに停めた


    ハロウィンジャンボは本日までと 
  広告の のぼりが翩翻(へんぽん)と翻っている


車のディジタル時計をみやると12時00分を回ったところだった 


「そういえば売り場は昼になれば閉まっていたような そうだよな 閉まっているよな 買うなってことか…」 

その宝くじ売り場の後ろ側に車を停車させたため

   店が開いているかどうかはわからない

一応確かめるため車から降りて売り場に向かった


       なんと店が開いてる

 「宝くじは買えますか?」と恐る恐る聞いた

      「ええ」とおばさんが言った

「昼休憩しようと思ったのでは?」と遠慮気味に聞いた

おばさんは「いいえ うちはずっと営業してますよ」

  「じゃあこのハロウィンジャンボの…」

バラじゃない方を購入したかった だが連番と言う言葉がどうしてもでてこなかった

やむなくおばさんに「バラを10枚ください」と言った

「後8枚しかないんです 連番ならあと20枚あるんだけどね」

「じゃじゃあ 連番を10枚下さい」と3,000円を差し出した

  「当たりますように…」とおばさんがいった

    恐らく決まりきった文句だろう


だが私は「はい あたりますとも!」と今まで他人には見せたことがないほどの自信に満ちた表情と笑顔で答えた


 私は車に乗り込み 次の配達先へ車を走らせた

その売り場にはもう一人の若い男性が宝くじを求めている

   その時は気にも留めていなかったが

    100メートル程進んだあたりから

何故か胸騒ぎがした さっきの若い男が最後の

ハロウィンジャンボ10枚を購入し 1等当選する光景が目に浮かんだ 【しまった もう10枚買えばよかった】自分のせこさに腹がたった


 気がつけば もとの売り場に車を停めていた

私は何かに取り憑かれたように 売り場にたっていた おばさんは少し驚いた表情をしたが

  すぐさま「いらっしゃい」と微笑んだ

「ま、まだ10枚 ありますか? ハロウィンジャンボまだかえますか?」


「はいまだありますよ はいこれで売り切れです」

 あの男はハロウィンジャンボをかっていなかった

私は勝利を確信した 天は私を見棄ててはいなかった 宝くじにキスをした

    それから私の心は穏やかだった

   私は家に戻り妻にその経緯を話した

 私はいつになく饒舌だったしかも上手に話せた



嫁はんに 怒られた こっぴどく怒られた しつこ~しつこく怒られた 体に穴が開くほど睨まれた レーザー光線でもあてられているように…


 パンツと靴下の穴はこいつのせいだと思った


       男は夢を追いかけ


       女は現実を見る


   せやけど そないに 怒るか?



【今にみてみろ!偉そうにしたことを後悔させてやる!】



   

  発表当日 宝くじをテーブルに広げた


ゴルフの芝の目を読むように宝くじの配置を調えた 室内だからか無風だ 【よし いまだ!】
スマホで当選確認をした



一時的ではあるが視力と聴力そして筋力ともに
失った



 私の頭の中は小田和正の歌が舞い降りてきた


もう♪終わり~だね~♪  さよならさよなら♪


さよなら~あ~あ~♪




   私はいつしか意識を取り戻していた 


        私は思った


男はこの時点で初めて現実というものを理解する


  そしてすぐ忘れる アホな生き物である




ここで一句


ハズレ くじ お金は 二度と 戻らない


         廃人   運 内蔵