絶望の果てに…

私は朝いつものように出勤の支度をしていた


通勤に使う車が歩いて20分程の場所においてあるため


私は電動自転車でその駐車場まで行っている


「それじゃあ 行ってくるよ」といつも一声かけている 


「いってらっしゃい  あなた」と妻は笑顔で見送ってくれる


「おや雨が降っている 天気予報では午前中は大丈夫そうだったんだけどな」


「あら ほんとね じゃあ私が送っていくね」と快く言ってくれた


「じゃあ お願いするよ」と申し訳なさそうに言った

妻が愛用する車が自宅にあるため 2014年式黄色のジュークを駐車場まで走らせた  普段の妻はお喋りで話が途切れることはないが さすがに運転中は一言も話さない 運転中はかなり気を使っているようだ


私は短い時間だが カーTVをつけた

どのチャンネルも連日続いているお笑い芸人の闇営業についてのニュースだった 

「またこのニュースか」と私は呟いた


「そうね」と妻も頷いた


 あっという間に駐車場に着いた


「ありがとう 送ってくれて」と感謝の言葉は忘れない


「じゃあね 頑張って」と手を振ってくれた

 
降車してドアを閉め私はじゃあねと手をあげる仕草をした

妻を見送っているときに私の表情が曇り

見る見るうちに鬼のような形相に変わっていった

そう憤怒の形相に…

私の歯が砕け散るのかと思うほど歯をくいしばった 

そして私の挙げた手は妻への助けを求める手に変わり


心の中で叫んだ



「おかあぢゃ~ん!」

   

挙げた掌は固く握り締め拳を作った

私はお腹を押さえる左手とその固く握り締めた右手をその出口に手を充てがおうとした

だが私の秘めたる根性がそうはさせなかった


何故ならば近所の目があるからだ そんな姿を誰にもみられたくない 私は両腕を地面に向かって伸ばしたそして出口を全身の筋肉を使って締め上げ 首の筋が浮かび上がるのを感じた


憤怒の形相まで隠せなかった私は車の方に視線向けた するとドライブレコーダーのカメラと目があった ありとあらゆる音がこの世から去っていった 何も聞こえない 刹那な出来事が私にとっては長く感じられた 今時のドライブレコーダーは常時記録されている 不覚だった


私は心の中で何度も叫んだ

【くそー!くそー!糞ーぉ!】


私の焦燥感は益々高まりピークに達した

だが私の脳は冷静沈着のスイッチに切り替えてくれた


【落ち着け 落ち着け よーし良い子だ】


私の頭脳は色々な提案を示してくれた


妻を電話で呼び戻し近くのコンビニか家まで戻る 

いやいやそんな時間はない

そんなことをしなくても 私の車で家まで帰ればいいではないか


いやそれもダメだ!


何故ならば体制を少しでも変えれば爆発する 座ることが出来ないのだ 犯人はそれを見て楽しんでいる


私は私の視床下部、海馬、右脳、左脳を総動員させ私の頭脳ナビゲーションsystemを稼働させた

(たぶん脳の潜在能力の50%位は出てきたと思う)


心頭滅却すれば屁もまた涼し!


ありとあらゆる近所の公園のトイレ等を検索した

だがどれも徒歩10分以上の結果がきた


「あった!」小さな声で叫んだ

あるじゃないか この裏に業販が!

(私は低価格 業務スーパーのことを業販と呼んでいる)


私は天を仰いだ  神に感謝したのだ


このスーパーは閉店してるが駐車場は24時間開いている 月極めのガレージもあるからだ

しかも相当古いがトイレも併設されている

50メートル歩くだけでいい そこに そこまでたどり着くことは

可能だ!

私はそこを目指した 走ることは許されず

歩いていては間に合わない

私はこのジレンマを打破するごとく競歩という素晴らしい種目と出会った


ようやくたどり着いた 長かった 長い戦いだった 目に涙が込み上げてきそうになった

そしてそのトイレの小屋の入口に差し掛かったとき 

トタンの塀によって閉鎖されていた

わたしの目の前は一瞬にして真っ暗になった

おそらく白目をむいてたからなのだろう

私のこれまでの人生が走馬灯のように流れていった 楽しかったこと 辛かったこと 色々なことが脳に伝わった  


そして「みんな 今まで ありがとう」と


だが私の中の回路が正常に働いた フィードバックしたのだ


いつしか顔は空を見上げていたのを 正常に前を向き 白目は黒目に切り替わった

  音が聞こえた はっきり聞こえた 

 うぃ~ん ガチャンと…

まだ一縷の望みが残されていた 

そう思い出したのだ!

30メートル先にトイレが新設されていることを! 

たが不安もあった 新しいモノだけに鍵がかかってるかもしれない 


「お願いだ たのむ たのむ」 


私は最後の力を振り絞り


憤怒!いや「ふんぬ!」と叫んだ


漸くそのトイレに近づくことができた

そしてそのトイレの扉にはやはり鍵穴がついていた 私は声を震わせながら

「今までのことをお許しください 助けてください」と誓願した


よく考えたら開いている訳がない そんな不用心な あり得ない  僕はシルバーのアルミサッシのドアのノブに手をかけた


ガチャっと音がした

あいたのだ  ひらいたのだ


「ありがとう ありがとう」と業販に感謝した


私はありとあらゆる筋肉の強ばりを一気に解放させた 今までの苦労や苦しみが嘘のように消えていった 汗も止まった 

天井を見て「業販 神~!」と莞爾として笑った 

何度も小声で「神~」「神~」……と

私はロールに手を伸ばした

「紙~!」

と叫んだ……。




      つづく?