闇に消えた花火

私の家は少し高台にあり眺めは良い方だ

環境も良く閑静な住宅 

そして近所の人達も良い人 ばかりだ


少し歩けばスーパー、銀行、バス停、公園、診療場等があり 比較的便利な場所である


長年住んでいるところで 閑静な住宅地だが

空き巣の被害などの話は聞いたことがない

夜道を歩いても怖さなど感じたこともない


今日は 日曜日 熱が私の体に纏わりつく程 
     
不快で暑い日だった 

お盆休みということもあり

近所の人達もどこかにでかけているせいかいつもより静けさが深さを増している


私達夫婦は特に出かける用事もなく 家にいた


「あなた ゴロゴロしてないで 今日はお掃除手伝ってもらいますからね」と妻は横になっている私の目の前に掃除用具を置いた


「充分 綺麗じゃないか」と妻を一瞥した

こんなときもう1人私の分身でもいれば楽なのに

と心の中で思ったが そんな子供じみた空想は

一瞬にして消え去り 妻の言う通り掃除を始めた


寡黙に床を雑巾で拭いていると 

タンスの裏に車のスペアキーが落ちていた 

「おい こんなところに昔失った予備の車の鍵が落ちていたよ」と妻にいった


「あら よかったじゃない 掃除をすると良いことがあるわね」と妻は莞爾した


「悪かったことが 解決しただけの話じゃないか」


「悪い風に捉えるのはあなたの悪い癖ね だから あなたは悪い方に向かうんじゃない?」


反論してもつまらないので話題を変えた

「で、どうだった?この間の花火大会は」

「知らないの?毎年7日にやってたんだけど

今年から毎年 日曜日って決まったの」

「へぇ そうなんだ ってことは今日開催されるじゃないか」と2階の窓から花火が見れるチャンスができた
   
私は言葉に張を加えて言った


なぜなら 長年住んでいるが 一度だけしか家から花火を見る機会がなかったからだ


「今日は庭でバーベキューでもしないか?そして食べ終わるタイミングで二階から花火をみようじゃないか」

早速 肉,野菜、ビール等買い出しに出掛けた 


我々夫婦は買い物の帰りに渋滞に巻き込まれた


「まだ14時よ 凄く道が混んでるわね」

「本当だね お盆休みと花火大会が重なるとこんな町でも賑やかになるな」と私は抜け道を駆使して家に辿り着いた 

早速鮮やかな芝生の上にテーブルや椅子、そして照明をセッティングした


 だがこの後に起こる悲劇が待ち受けてようとは
 
誰が予想しただろうか…


私は近くに一人で住んでる母も誘い3人でバーベキューが始まった 

「ここまで歩いて来たときに 殆どの家 留守が多かったわ」と母が言った

「お盆休みと花火大会が重なってるのもあるかもね」と妻は言った


「そうね  まだ日が明るかったのに あまりにも静かで少し怖かったわ 誰かに見られているみたいで…。」


「や、やめてくれよ 母さん」と怪談話等に弱い私は言った


「少しは涼しくなったんじゃない?」と妻はいじわるそうな目で私に言った


私はそんなことを言わなくともこの黄昏が暑さを一緒に連れて行き その必要はないと思っていた 

すっかり日も暮れて ドンと空が響いた

「おや 花火大会が始まったようだ さあ肉を焼いていくよ」花火大会が始まると同時にバーベキューも始まった なぜそうしたのか

私は2時間もクーラーもついていない二階の部屋から時折打ち上げられる花火をみない 私の狙いは花火大会がクライマックスの時に観賞するからだ  


私達に ほろ酔いと月下の宴が良い気分にさせてくれた 普段あまり笑わない母親もにっこりと笑い楽しそうだった

「もうお腹がいっぱいだね おっと8時30分か 花火大会もクライマックスに近づいてきたから 君たち二人は先に二階に上がって花火をみてきてよ あとでいくからさ」

私はあらかじめ二階の部屋から花火を観賞しやすいよう ソファー、扇風機を置き カーテンそしてサッシも取り外した もちろん蚊取り線香も焚いておくことは忘れていない


二人は二階へ上がり花火を見に行った

私はその隙に 後片付けをした 花火を見終わってから片付けをさせるなんて… 相変わらずやさしい夫なんだと自賛した


   
私は驚き片付ける音を消した

【だ、だれだ!】


誰もいないはずの一階から物音がした


外で片付けをしていた私は背筋が凍りついた


本当に凍りついたように身動きが取れなかった


私は目だけを左右に動かし何か武器になるようなものも探した 

だが何もない 


【そうだ 玄関にまわればホウキがある】

ゆっくりとそして音もなく 玄関にまわった


ホウキを手に そっと玄関を開けた


【くそっ 大胆にも電気をつけやがった】


私は想像した 

犯人は恐らく二人組だ雰囲気でわかる 

リビングにはマントルピースがあり 

そこに妻の宝石箱がある 

その音から犯人はそこをあさっている 


【犯人が1人だろうが2人だろうが 刃物を持っていたら勝ち目なんてない 二階に上がって 妻たちに知らせなきゃ】と向きを変えた瞬間


リビングの扉が開いた

ガチャっと…


【つんだ しんだ おわた】


上品ぶってた私が 崩壊した


きやあああああって言う準備が整った


「あんた なにしとるん?」


「な、なにて お、お前こそなんで下におんねん」


 「今グクッてみたら今年は30分早く終わるんやて」


「んな あほな」 


鳩みたいに豆鉄砲くらってしまったワシは


こいつの言ってることがわからんかった


気を取り直し


「チャウチャウ チャウまんねん ためや ためとるんや それからドドンとやりよんねん」


「あんたいつまでホウキもってんねん 槍をもったマサイ族ちゃうで ぐぐったから見てみ」と嫁はんのスマホを見た

確かに書いてあった

ほんまに書いてあった

      
   8時30分終了って…


わしの心の中の花火が暴発した


盆だけにBONと音をたてて…