ブルドック

 島々が眼下に広がる 緩やかな風が頬に触れ


  微かな潮の香りが僕の心を穏やかにさせる


  雲が少しあるが 申し分のない天候だ


   目を閉じ ゆっくりと深呼吸する


  「さあ いくぞ」と自分自身に話しかけた


     草原を一気に駆け降りる


 勢いが増すにつれ風が僕の体を持ち上げてくれた


   そして最後の一蹴りで 空中に浮いた


  
 ついに 空を飛んだ 高い所が苦手だった


克服した僕は 嬉しさのあまり雄大な景色に向かっておもいっきり叫んだ


   そう 初めて挑んだパラグライダー


   背中に翼が生えたような心持ちだ


   これが 本当の自由とさえ思えた



  言い知れない感動を味わっていたその矢先



    異音が聞こえた 嫌な予感がした


   恐る恐る上に目をやると グライダーが

     真っ二つに折れる瞬間だった


僕は死を覚悟した まっ逆さまに墜落したのだった…


      「あああああぁぁぁ」



        

         「あ?」



       【なんだ 夢か】


 僕は仰向けになっている 空は美しく晴れていた


       雲も優雅に漂い 

さわさわと風と草木が会話てしいるのが聞こえてくる


      
   【僕はここで寝そべっていたのか?】


 両脇には高さ1㍍程のコンクリートの壁があり

 寝そべっている地面もコンクリートになっている


  【こんなところで寝そべるはずがない】


     僕は体を起こそうとした 


  身体中が打撲と擦り傷で痛みが走った



       【なぜだ!?】



      理解出来なかった



       思い出せない


    僕の記憶の糸が見当たらない


     

       【どこだ?】


    どこかに記憶の糸が隠れたのだ



僕は必死で数多の記憶の糸を掻き分け捜索する


探し出すのに苦労したが漸く見つけることができ


  僕はゆっくりとその記憶の糸を手繰り寄せた

 
      すると 見えてきた


僕は愛犬ドーザと散歩していた 

ドーザは嬉しそうに はしゃいでいる 


言葉は少し変だが とにかくブサイクで可愛らしく
愛くるしいブルドックで目に入れても痛くない


   僕とドーザは土手を散歩している 


        そして僕は


    「あっ」と思わず声を出した


  リードが足に絡まり バランスを崩して

   土手下の用水路に転がり落ちたのだ



近くに新しい道が建設中で この用水路もまだ新しく
使われていないのが不幸中の幸いだ



  「そうか それで… はっ ドーザは?」


僕はドーザと呼んでみた だが反応はない

 徐々に声を大きくしてみた それでも反応がない

 ドーザと叫ぶ瞬間 近くで工事が始まったのだ

  僕の叫ぶ声は工事の音で掻き消されていく


  僕は右手に付けている腕時計に目をやった


     時計の短針は8を指している


   「なんで? なぜこんな時間に?」


   僕は更に記憶の糸を手繰り寄せた


 僕は朝6時にめざまし時計によって目が覚めた


 いつもなら こんなに早く起きるはずがない


     着ていく服を選んでいる


【どこかへ出かけるつもりなのか?これは何か大事そうな用事があるのか??】



   僕はまた更に記憶の糸を手繰り寄せた


      【おもいだした!】


     と目がくわっと聞こえた


    【こうしちゃいられないっ!】



【岡本さんとデートの約束をしていたんだ!】



僕はどちらかと言えば 内気で積極的に人前に出たり自分から行動を起こしたりすることができない性格だ  気が小さくて、他人と関わることが苦手で コミュニケーションうまくとれない


     つまり引っ込み思案なのだ  


        そんな僕が


満を持して おもいっきって 勇気を振り絞って


放った言葉だ    

     
デートしてくださいと!


   僕は慌てて立とうとした 



        が立てない…



       もう一度試みる



       やはり立てない…



        僕は叫んだ



      NOぉぉぉぉぉ~!



     僕はポケットに手をやる



        ないっ


     

       携帯電話が…



         ない…    



      うおおおぉぉぉ~ 



    犬の遠吠え かっつうくらい


         吠えた


そういえば充電を満タンにするため 携帯電話を

置いてきたのだ


    「で、でえとがああぁぁぁ~」  



    
 僕は叫ぶしか手立てがなかった


     助けてと必死で叫んだ


だが誰も気付いてはもらえない それもそのはず 
この歩いてきた土手は殆ど誰も通らない 


僕は人とは出来るだけ避けたいこの散歩道を

選んでいる



    だが 叫ぶしか出来なかった


  万が一 人が通るかも知れないからだ


外国人も通るかもしれない


   僕は得意の英語をいかして


  「Help   meeee~」訳 助けて


僕の声は虚しく工事の音に吸い込まれていく


頼みの綱はドーザしかいない

  
ドーザともう一度叫んだ 


      ………。


やはり反応がない



そうか あの犬は頭がいい おても おかわりも


伏せも ティンティンも…



きっと 家族か誰かに助けを要請してくれている


    あの短い足で 顔にでないが


     すごい形相で(もともと説)


    助けを求めに行ったに違いないっ


 僕はその姿を想像しただけで 目に涙が込み上げ


      涙で視界が歪んでみえた


 僕は すまない の最上級の言葉を送った


     「かたじけない…」と



 行き場を失った涙は僕の頬を伝いズボンの上に こぼれ落ちた



     

 来なかった…いぬ



  どれくらい時間がたったであろうか 


    僕は時計を見る気力も失せていた


 喉も掠れ  だせる声も使い果たした


     徐々に意識も遠退いて行く



「ああ 僕はこんな所でこのまま死んで行くのか短く儚い人生だった 兄貴 父ちゃん 母ちゃん先立つ僕を許してくれ」



「いやだめだやり残したことは山のようにある  
 がしかしっ!  これだけは これだけは…」



         そう 


   いちゃいちゃ と ちょめちょめ 

  

          だ



    僕は立てないけど奮い勃(た)った


僕は両手の拳を硬く握り締め 掠れて声にならないが 


       空に向かって 


       ちょめちょめ~


        と叫んだ


  すると神に届いたのか 工事の音が


     止んだ  ぴたっと…


     どこまでも静かだった


      僕は腕時計をみた


    ちょっきり じゅうにじ


       お昼時間?


     そうだ お昼時間だ



ピンチはチャンスだ この機会を逃してはならない 工事のおっちゃんたちは果たして気付いてくれるだろうか?



 だが 問題は喉の潤いだ 唾が枯渇している


      まずい 非常にまずい


   今僕は生と死の境界線をまたいでいる


     慌てるな 考えろ 考えろ…


        ち~ん


   ひらめいた!一休さんのように


      僕は想像力豊かだ 


   それを活かすときが漸く訪れた


   全身全霊 気を高め 一点に集中する

       こおぉぉぉ~


  1つの 梅干しでは駄目だ話にならん! 


       追加だ!まだだ!


      もっと!まだまだ!


    わんぱっく 全部いったれ!


     あかん!あともう少しっ!


    【脳の総司令官の報告です】


    【なんだ!どうした!?】


【申し訳ございません 梅だけでは限界とのこと】


  【な、なんだと はあはあ どうすれば…】



 

 夢ならば~♪どれほど~♪ふふんふ~ふ~♪


        うえっ!


     あの日の悲しみさえ~♪


     あの日の苦しみさえ~♪



      レモン~の匂い~♪



   このメロデーが舞い降りてきた


 
 【そうか その手があったか! レモン…】


    あなたをリスペクトします


     ありがとう 玄師


      そして 集中した


       おおおおおっ


    どんどん  涌き出てくる 


 Max charge(赤いランプから緑のランプに変わった)


       唾がたまったのだ


   

    僕は唾を飲み込み 喉を潤した 


     そして 力の限り 叫んだ


   「た~す~け~て~~~っ!」


   

    「だ、駄目か お…わった…」

 すると ひょこっと 顔が4つ 僕を覗いた


 慌てて工事のおっちゃんが僕を抱えてくれた


  すると 歩けないと思っていた体がなんか


        ぽすっと


    何かがはまった感覚がした



     腰を抜かしていたのだ



  工事のおっちゃんたちにお礼を言って


 ベンジョンソンに追い付く位 ダッシュ


        家に帰った


  携帯電話を見ると着信履歴が数件あった


     岡本さんからだった


     メッセージを聞くと


  「どうしたの? 何かあったのかな?」

          とか

    「心配です 大丈夫なの?」


    僕は奮い勃った(本日2度目)



   「よしこ~!」※岡本さんの名前


    だが 連絡は取れなかった


  メッセージに謝罪の言葉をたくさん入れた…



 忘れてはいけないのは 目に入れても痛くない


      愛犬 ドーザの存在だ


    そういえば すれ違わなかったし


  家に戻っていれば 僕の所に来るはずだ


      家には誰もいない 


  【確か早く出かけるって言ってたな】


     【どこ行ったんだドーザ】



    僕は米津玄師のようにふらふらと

    犬小屋をもう一度見に行った



      犬小屋中を覗くと 

  気持ち良さそうに爆睡していた……。



   

    くそいぬがあぁぁぁぁぁぁぁ




 

   



   しばらく口聞いてやんなかった…

マシュマ浪漫

私はこの地に引き越してもう一年になる

周りの環境が一変したが 私の生活のリズムは変わっていない  

朝早くから庭で体操をし、この地の空気の香りにも馴れ 思いっきり深呼吸をした 

私の足に纏わりついているのは愛犬ウイリーだ

ウイリーもまた日課のように私に近づいている

「お前は庭で遊び放題できるじゃないか そうかそうか よしよし そりゃ 遊び相手がいないと寂しいな」とウイリーと じゃれあった

私は汗ばんだ体をシャワーで洗い流し

サッパリしたところで 朝食の準備をする

とはいっても パンにチーズをのせ 珈琲を飲む程度のものだ

テレビは勿論つけている ニュースによって色々な情報を得るためだ

私はニュースを聞きながら作業服を着ている

すると着信音が鳴動した

「わかった すぐ行くよ」

私は誰もいないリビングにむかって 
玄関から

「いってくるよ」と小声で言った


車の横で待っている男が私に挨拶をし


私も「おはよう」と返事した


それきりその男とは 工場に着くまでは終始無言である

私は広い工場の裏辺りで言った

「この辺りで降ろしてくれ」

「今日はいったい何をされるおつもりですか?」

と男が聞く


「ああ 草引きでもしようかなと思ってね」

「そのようなことは私どもにお申し付け下さい」

「いやいや 構わんよ 私は好きでやるんだから それより 午後から大切な客人がくる 空港まで迎えに行くのに その車に埃がついていては失礼だからね 磨いてきなさい」

そして後部座席のドアを運転手に開けさせた

「また2時間程で戻って来てくれたまえ」

「かしこまりました」


私は2019年製黒のベントレーコンチネンタルGTを見送りながら

3年前の冬のことを 思い出していた 


当時私は収入が乏しく 贅沢なんてできる程ではなかった だが私の生活を一変させた出来事が起こった

たった1枚の宝くじによって…

私は一夜にして億万長者の仲間に入ったのだ

持つことのない大金を手にした私は贅沢のやり方がわからなかった だから派手に車を買ったり

豪遊することもなかった私は 金を捨てる気持ちで 色々な店を出店した 

ところが何をやっても

売り上げが上がり 金が減っていくどころか みるみる増えていくではないか
そうお金は私を追いかけてくるのだ 私はありすぎるお金から逃げるように 親戚 や息子たちに店を手放した 

そして日本を離れこのマレーシアに移り住んだのだ


一部の資金でこの地に住むこととなり

何もしないのは体が訛る私は夫婦で小さなパン屋を経営した  ところが1種類のパンだけ跳ぶように売れた 世界中に注目されるパンとなった 私はその喜んでくれているパンを皆様にも もっと味わって欲しいとの一心で工場を建設した 気がつけば お金が私に近づいていた もうその頃の私は来るものも拒まずの意識にかわっていた 

【私に付いてきたければくるがよい】と…

私はそんなことを考えながら草引きをしていた

草むしりが終わり 工場内のシャワールームで汗を流し 昼から客人と会うため イタリア製キートンのスーツに着替えた


客人に工場内を見学してもらい 
応接室(とはいっても和室だが)で話をした


客人は すぐ出国するため あまり長く話すことができなかったが 有意義な時間だった

私は会社に置いてある車を空港まで客人をおくった 客人は満足した表情で「謝謝」と言った


私はそのまま家に帰ることにした

空港から車で30分程走った所に私の家がある 私の敷地の入り口には大きな門扉がある 警備のものが門扉を開け敬礼をして待っている 車を一旦停車しウインドウを開け 「ご苦労様」と私は労いの言葉を忘れない

真っ赤なランボルギーニのエンジン音にいち早く気がついていたのか 愛犬ウイリーが身体中くねらせて私を出迎えてくれた 


屋敷までゆっくり車で走って1分かかる

そこまでウイリーと並走した

私は車を降り 屋敷に入った リビングに向かい リビングにあるカーテンが風で靡いていた 窓が空いている
窓の外を出てみると プールサイドにビキニ姿の妻がいた 

リクライニングチェアに寝転がっていた妻は上半身を少しの浮かせ

「あら おかえりなさい 今日は早いのね」と


GUCCIのサングラスを外し笑顔で話してくれた 

つばの広い帽子をかぶっているせいか 上品で優雅に見えた


妻の両サイドには筋骨隆々のビキニパンツをはいた男二人が立っている この男たちが妻を守るボディーガードだ 

妻は不適な笑みを浮かべ 横に飲みかけのトロピカルジュースを飲み干した 

私は嫌な予感がした 動物的 感が作動したのだ

妻は喉を潤しボディーガードに言葉を発した

「あなたたちの報酬は  35億…」

「やっておしまい」と号令を出した

私はすぐさま反応して玄関へ逃げ ドアを開けた

するとウイリーが私に牙を向け唸っているではないか 

私は玄関の扉を慌てて閉め 

私は地下に通じる階段を逃げ場として選択した 

そこは私しか入ることの出来ない
セキュリティコレクションルームだからだ いや正確には今日  

天津から来た爛漫ちゃんは知っている

この爛漫ちゃんは優秀な頭脳の持ち主だ

この女は私のセキュリティを 管理していて信頼のおける女だ 

今日彼女が私に訪ねて来たのは新しいセキュリティシステムを刷新するにあたっての話をした 

その時私のコード12桁を彼女に教えた あと数時間で新しいコードが完成する

だから私のコードを知っているのは

天津からきた らんまん ちゃんだけだ!

【ここなら安心だ 警察に連絡をしなければ】

私は携帯電話を胸ポケットから取り出した


すると同時にオースティン・マホーンのダーティワークの着信音が鳴った  

この着信音は妻からだ

私は唾を飲み込み 電話に出た

「あなた~ おとなしく でていらっしぁあい」


このゆっくりとした口調の裏には毒針を含む言葉だった

「騙したな!お前たちは牢獄に入ってもらうからな!覚悟しておれ!」


【だいたいなんだ!あの男どもは!筋肉もりもりで おまけになんだ あのビキニは!ビキニから溢れんばかりのもっこり  あ~きにくわん!】


「あら あなたの方こそ覚悟はできてるの?」

「な、何を言っている 強がりはよせ ちえみ!」

あなたのセキュリティコード 天津からきた爛漫ちゃんに教えてもらったの」

「なに!お前とあの娘とは何の接点もないはずだ!」

「うふふふ 買収したの  35億  で」

そして通話が切れたと同時に開かない筈であった

扉が開いた

うぃいいい~んと…

薄布地のブルゾンを羽織ったちえみと

両脇にはあのマッチョがいた

「観念しなさいなっ」


と3人ともゴーストバスターズのような(かなり昔の映画)掃除機を背負っている 


 私の何もかもを吸いとるつもりだ

あの強力な掃除機から逃れる術はない


  せめて せめて  せめて!


私は来月楽しみにしていたキャリーのSS席のコンサートチケットだけは死守するのだ!


ああん!3人とも1度に私を攻めないで~

ああああおあああぉぉぉぉぉ…


     ぱみゅぱみゅうううぅぅ…



 



 

「おいっ!起きろ!じゃまやっつうの!」


「う、ううぅぅ」


けたたましく鳴り響く吸引機の音

ああ やめろ!やめてくれ!

これは吸わないでくれええぇ

「やかましい!はよ目を覚ませ!」


はっ!

「お、お前なにしとんねん!」


「お前こそ 邪魔よ!幸せそうな面で寝やがって!」


「あんたの手に持ってる宝くじもごみじゃあ 何ゆめみとんねん!吸いとったる!」


や、やめろおぉぉ!


すぽっ


確かに聞こえた


わしの手にあの宝くじがない!


吸い込まれた!


わああああ わしの当たりの200円があ!


夢なら覚めてくれえぇぇ

 

お!ムレ 2!

俺の先輩はクレーマーだ

普段の仕事は完璧にこなす

其れゆえ 他のサービス業界の従業員の仕事ぶりを 逐一気にするのである


いつも俺達二人は一台の車で得意先を


一日中まわっている


休憩でコンビニエンスストアに行くときも


ご飯を食べに行くときも


絶えず文句をいっている


よく俺に この世の中を


「良くしていかにゃあならん!」 


はあ


あんたは神かなんかですかい?


言われた人は変なおっさん


としかおもってないのですが…


クレームの内容はこうだ

    
コンビニで


「温かいもんと 冷たいもん わけろや!冷めるやろ!ぬるなるやろ!」

「チョコレート溶けるやろ!」



「なんで箸やねん!カレーにはすっぷぅん!やろ」


「おい 順番まもれ!マナーやろ!
おい店員ちゃんと見とけ!」


「お湯がない!
どーやってラーメンくえっつうねん!」


「41番ちゃう!51番や!ラッキーストライクや!耳わるいんか!」

もはや暴言 ストライク投げられて空振りしとけ

「おいレジ並んどるやんけ 店員もう一人おるやんけ そいつもレジまわせ!さっさとせいっ!」


そんな私は真っ赤な他人のふり


だが他人のふりが出来ない状況もある



いつも行くガソリンスタンドだ


店員がオーライオーライと元気良く誘導


 「君 うるさ過ぎる!静かにせえ!」


別の日


店員が気を使ったのか少しトーンを下げ誘導


「おいっ!元気がない もっとはっきり言わんと!わからんやろ!」


     
僕と店員はテレパシーで心が通じたのか


『どっちやねん!』と突っ込んだ


昼飯を一緒に食べに行ったときもそうだ


席は空いている→ 駐車場が空いていない

駐車場もっと増やせと店員に言う

→飯くるの遅い!

→店員同士喋っとる

→店員呼ぶ

→注意する

「喋っとらんと はよ作れ!」


いやいや あの人達ウェイトレスだしっ!

料理人ちゃうしっ!


あるときは


「なにこれ?」


「し、塩ラーメンですが…」と店員


 「わしは味噌ゆーてん お味・噌!」


「も、申し訳ございません ただいま作り直します」


「あたりまえやんけ のう? 相棒」

と俺に同意を求めた

「 は‥はい」


俺は心の中で思いっきり叫んだ 


あじ音痴のあんたは塩でも味噌でも同じだろ!


はあはあ  言ってやった


心の叫びの音漏れもしていない


    せーーーーふ

「っくしょいっ!」と くしゃみをする先輩

びくつく俺

「ま~たわしの噂しとるなあ~」


『ああ てめえの悪口をな しかしびっくりした~』
  

俺はトイレにいくふりをして席を外した

さっきの店員の所にいき ごめんなさい堪忍してくださいと謝った


すると店員は心底いえ 私どものミスですからと満面の笑みで答えてくれた


俺は涙を浮かべた

か、神たいおー!


ま、負けた 完全に俺達の敗北だ


こんな笑顔で対応したことがない!


俺は今まで何をしていたのだ


完璧じゃないか!


この店員の対応を先輩にみせてやりてぇ


何がこの世の中をだ!


あんたが悪くしてるんやろ!


席に戻る俺


おい 相棒 この味噌ラーメン 


しょっぱくねえか?


まだ いう!文句!


このひと 


クレーマーでなけりゃあいい人なのに




そんなある日


茶店で昼飯をしたとき


先輩はカツサンドとカレーを注文


「よく食べますね先輩」


「おうよ 加齢に打ち勝つ!ってな」


    がはははははは


俺は苦笑いして ひくついた 顔面が…

先輩が座る椅子の下に落とし穴が細工してあったらいいのに‥  

そしてそのボタンを押しておとしたろかとおもた

        
相棒は何すんねん!

『はっ!』
  
「え、え~と それじゃあハムエッグと…」


 「おいっ! おまえ おちょくっとんのか!」


 「え? ど、どうしたんですか?」

「わしの前で たまご の話すんな」  


「す、すみません」


「い、いやわしの方こそすまん 取り乱してもうた」


「いえ 大丈夫です」 


「あ すいません 俺もカレーでお願いします」


いつもの俺なら聞き逃していた


だが今日は気になって気になって樹になった


「どうしたんですか先輩 びっくりしましたよ」


「いやあ すまん すまん じつわな
実話なんやけどな」


ちらっと俺の顔を見た


もーえーって おもんないから
俺はスピードランニングのように聞き流した


「で どうしたんですか?「」


「わしの家の壁にな 何者かが 生卵投げよるねん」


「生 たまごをですか?」


「そうやねん しかも一個ちゃうで1パック分や」


思わず もったいねぇ~


といいかけたが  


眉間にシワをよせて親身のふりをして


「酷いことしよりますね ゆるせないですね!」


「そやろ しかも デッキブラシで擦っても落ちひんねん  生たまごは たち悪い」 


「それで警察には知らせたんですか?」


「あかんあかん 報告しても 警察がこんなことで動くかいな」


「でも一応言っておいたほうがいいですね」


「そやな んでな それだけちゃうねん
それから またちょいちょい たまご投げよんねん」


びっくりしてないけど え~!


「しばらく夜更かしして 見張っとってん犯人捕まえたろおもて」


「そんなことして 刺されでもしたら 怖いですよ」


「あー大丈夫や そんな こすい やつ そんな根性あらへんて」


 「本当ですか? 気を付けてくださいよ」


と心配してないけど心配してそうな顔をした


「そやけど なかなか 出てきよらんねんタイミングあわんわ くやしいさけ ホームセンターで防犯カメラ買おーたんや スマホにもライブで見れるやつ
でもな操作わからんねん 見てくれへんか」


「いいですよ設定しましょう」
と興味津々だったので快く引き受けた



早速その日 先輩と一緒に先輩の自宅にいった

家の前で先輩が 「ちとまっててくれい」

「わかりました」  

「いま帰った」

と家のなかで説明の声が聞こえた 

し~ん

すると
「なあ あんた!酢買ってきてないやん
何しとんねん!使えんわー」

「酢、酢みません」


こんなときにもだじゃれに聞こえた


てか 奥さん怖え~

先輩が出てきた 強ばった顔で…


「お、おう 忘れもんや そこのスーパーに用事や ちといってくる まっといて」


  「先輩 俺買ってきます お酢…」

あっ! しまった 言ってしまった

聞いてたのがばれた!

「おいっ 聞いとったんか」

「はい 少し」

「何処からや!」

「いま帰った から…」

「全部やないか!」

「ま、まあええわ でも会社のやつには内緒なっ!」


「は、はいっ 口が裂けてもっ!」


そんなこんなで大したことのないカメラの設定がおわた 


「先輩 接続はされていましたから ここ一週間分録画されていましたよ」

「まじか! 5日程前にまた たまごやりよってん!」


「ははははは 犯 に~ん! 堪忍せえよ~」


「いきますよ先輩!」


3人で ドキドキ

3人で ハラハラ

じ~~~~

音は聞こえなかったが

ぴゅんと何かが写った

3人共

ん~? 

「もっかい見ますね」

ん~~?

「スローで見ましょう」

 ぴゅゆうううううぅんんんんん
 (スローの表現)


3人が口を揃えて  

 「卵?」


 3人共 首を傾げた…


 「先輩 た、卵だけが写ってますよ」


 「な、なぬっ!」

か、壁に向かってカメラ向けている‥

あ、アホなのか?‥

俺は設置の方向を修正してかえった


それからは卵の被害はなく結局犯人は写らなかった


平和な日々が訪れた


何事も無かったかのように鶯が美しく囀んでいる


春の風の香りが俺の心を落ち着かせている


俺が公園のベンチで休憩していると


スマートフォンから着信音がなった

ディスプレイを見るとISIHARAと表記されていた

あ、先輩からだ!

あれから月日が流れ 俺と先輩は今は同じ職場にいない

「もしもし!先輩!お久しぶりです!」


「あ、はい わかりました 近くにいるのですね!」


俺は久しぶりに先輩とあった



「あのさあ また 卵やられちまったよ」

「またですか!!」


「まあ見てくれよ」 

「あ! 中学生位の3人組!」 


「ああ 昔 家の前でタバコを吹かしてたガキんちょに注意したやつらだ」

「ああっ!卵を投げた!」

「ん?」

ケチャップも!?  

思わず吹き出した  いや なんなら

本気でわらってもた

「お、オムレツやん!」


それ以来 先輩とは連絡が取れなくなっていた…

怨魂(えんこん)

私は突然目を覚ました


蒸し暑い夜


暑さのせいか 私の体は汗で

ぐっしょり濡れている 


エアコンをつけるため 開いていた窓を閉めようとした 私は闇夜に稜線がくっきり浮かび上がる丹波富士を眺め


【今日は風が動かない そりゃあ 暑いはずだ】

と呟いた

私は新しいシャツに着替え 再び床についた

エアコンから出る風が安眠へと案内してくれた


  

雨上がりの水溜まりを踏んだ

他の水溜まりを避けようとしたが何度も何度も踏んでいる 

びちゃっ  びちゃっ と…

私は はっと 目を覚まし

「なんだ 夢か」と安心した


だが クーラーをつけていたにも関わらず

また少し汗をかいていた


私はディジタル時計に目をやり


私の拍動は少し驚いた


am2:22を指していたからだ


目が揃う時間はよくあり他愛もないことだが


何故かその時は背筋が凍り それと同時に

私がかいた汗は冷たさを増した


私はエアコンの温度を少し上げ 布団に転がった


頭の中の眠気スイッチの調子が悪いのか なかなか眠れない 

私は無理矢理寝ることを諦めテレビのスイッチを

押した


テレビのスピーカーからは女の悲鳴がした

【ぎゃああああ】

私も「いやあああああん」と両手で目をふさいだ

私は驚きテレビのスイッチを切った


サダコの再放送だった


ドラムを叩くように心臓が動いた


嫌なものを見た

【 ますます眠れないではないか】

すると外から


びちゃっ    びちゃっと音がする


私は はっと 窓の方をみた


すると窓の外から クスクスと笑い声がする


恐くなり 耳を塞ぎ


【気のせいだ 気のせいだ】
と自分に言い聞かせた


その不快な笑い声は収まり

動悸と息切れがやっと収まったと思った

その時である


またもや微かな笑い声とあの不気味な音が聞こえる


びちゃっ びちゃっ と…


同時に窓の上から どろっとした液状のものが

窓を伝い滴り落ちた


私は 恐怖に歪んだ表情をした

そう 目玉が飛び出しそうな程…


ふと

私は防犯カメラの存在を思い出した 


スマートフォンと連動しているため


早速確かめる事にした 小刻みに震える手は


正確に画面を触れることをゆるさなかった


そしてようやく画像を開くことができたのだが


玄関と車庫だけが映っているだけで


人や車が通った形跡は見当たらない


もう一度 その笑い声と奇妙な音がした時刻にあわせて 再生した


瞬きをせず 画面に穴が開くほど鋭く目を凝らした


「こ、これは」


私の腕は恐怖で総毛立った   



確かに映っている だがそれが何なのかは

見当がつかない  スローでもう一度見る


やはり同じことだった


なにかが 通りすぎている


早すぎて認識できない


これは果たして怨霊の仕業なのか


私はふと 隣の部屋で寝ている妻の様子が気がかりに思えた  私の予感は的中する


急いで妻の寝室のドアをあけた  

    
寝ているはずの妻がいない


私は【とみこぉ!】と叫んだ


急いで一階に向かって階段をかけ下り

リビングの扉を開けた

リビングの電気は消えていたが テレビはつけたままで 砂嵐の画像と音が恐怖を増幅させた

その下を見るとカーペットの上に妻が仰向けで倒れていた

私は妻のもとをかけより 叫んだ


「とみこぉ~!」(仮名)


それと同時に妻の遺体はゾンビのように 


上半身だけムクッと起き上がった


私はどこから声を出したのか

「ふぎゃあああああ~!」と叫び



妻に向かって走った足を急にブレーキをかけたおかげで 反動で足が滑り 宙に舞った 


しりもちをつき起き上がれない亀のように手足をばたつかせた


【じ、じぬぅ~】声が出なかった



「も~びっくりするやん!」と妻の声




「いやああああぁ! しゃ喋った!なんま~だむ なんま~だむ」と恐怖におののく私


「どないしたん あんた」


と嫁はんの覚めた表情と低いトーン


我に返ったわしは嫁はんに

「紛らわしいねん びっくりするやないけ!」

と声を荒らげた


わしの怒りの声を被せるように「何ゆーとんねん!私の方がびっくりするわい!」と言った


続けてガミガミ怒られた…


「お酒飲んで テレビ見て寝落ちしただけやないの!だいたいあんたはガミガミガミ…」


多分 文章にしたら1万文字位 文句と説教を


聞かされた



【お化けも怖いけど こいつも怖い…】


超能力者のように嫁はんが


「なんか言った?」



「いや な、何も言ってません ただ 外に


 怨霊が怨念 いや おんねん」


「何ゆーてんの? あほちゃうか 外になにがおんねん」と玄関へ行く頼もしい嫁はん


そして おかあちゃんの後ろからおどおどしながら続く 僕


(人間がちっちゃくなるにつれ妻への呼び方が変化) 


かあちゃんが玄関の扉を開け外に出た


続いて恐る恐る顔だけ外に出して周りを見渡した


何もなくホッとした私は強ばった全身の筋肉を緩めた


その時であるどろっとしたものが僕ちゃんの頭にのっかったのである


「いやああああぁ! ママたちゅちゅてぇ~!」


      《要約 ママ助けて》



冷静沈着で勇敢なママは

「あ、卵投げられてるしかも半熟…」


「なあんだ たまごか…」


「な、なんで~!」


  と怨魂(おんたま)の話でした



あとで思い起こすとこないだ近所の学校のクソガキ7人組にボロカス注意をした その逆恨みだろう イライラしながら外壁の掃除をした

たまごなかなか とれんやないけ~

クソガキ~クソガキ~ガキイ~イ~

闇に消えた花火

私の家は少し高台にあり眺めは良い方だ

環境も良く閑静な住宅 

そして近所の人達も良い人 ばかりだ


少し歩けばスーパー、銀行、バス停、公園、診療場等があり 比較的便利な場所である


長年住んでいるところで 閑静な住宅地だが

空き巣の被害などの話は聞いたことがない

夜道を歩いても怖さなど感じたこともない


今日は 日曜日 熱が私の体に纏わりつく程 
     
不快で暑い日だった 

お盆休みということもあり

近所の人達もどこかにでかけているせいかいつもより静けさが深さを増している


私達夫婦は特に出かける用事もなく 家にいた


「あなた ゴロゴロしてないで 今日はお掃除手伝ってもらいますからね」と妻は横になっている私の目の前に掃除用具を置いた


「充分 綺麗じゃないか」と妻を一瞥した

こんなときもう1人私の分身でもいれば楽なのに

と心の中で思ったが そんな子供じみた空想は

一瞬にして消え去り 妻の言う通り掃除を始めた


寡黙に床を雑巾で拭いていると 

タンスの裏に車のスペアキーが落ちていた 

「おい こんなところに昔失った予備の車の鍵が落ちていたよ」と妻にいった


「あら よかったじゃない 掃除をすると良いことがあるわね」と妻は莞爾した


「悪かったことが 解決しただけの話じゃないか」


「悪い風に捉えるのはあなたの悪い癖ね だから あなたは悪い方に向かうんじゃない?」


反論してもつまらないので話題を変えた

「で、どうだった?この間の花火大会は」

「知らないの?毎年7日にやってたんだけど

今年から毎年 日曜日って決まったの」

「へぇ そうなんだ ってことは今日開催されるじゃないか」と2階の窓から花火が見れるチャンスができた
   
私は言葉に張を加えて言った


なぜなら 長年住んでいるが 一度だけしか家から花火を見る機会がなかったからだ


「今日は庭でバーベキューでもしないか?そして食べ終わるタイミングで二階から花火をみようじゃないか」

早速 肉,野菜、ビール等買い出しに出掛けた 


我々夫婦は買い物の帰りに渋滞に巻き込まれた


「まだ14時よ 凄く道が混んでるわね」

「本当だね お盆休みと花火大会が重なるとこんな町でも賑やかになるな」と私は抜け道を駆使して家に辿り着いた 

早速鮮やかな芝生の上にテーブルや椅子、そして照明をセッティングした


 だがこの後に起こる悲劇が待ち受けてようとは
 
誰が予想しただろうか…


私は近くに一人で住んでる母も誘い3人でバーベキューが始まった 

「ここまで歩いて来たときに 殆どの家 留守が多かったわ」と母が言った

「お盆休みと花火大会が重なってるのもあるかもね」と妻は言った


「そうね  まだ日が明るかったのに あまりにも静かで少し怖かったわ 誰かに見られているみたいで…。」


「や、やめてくれよ 母さん」と怪談話等に弱い私は言った


「少しは涼しくなったんじゃない?」と妻はいじわるそうな目で私に言った


私はそんなことを言わなくともこの黄昏が暑さを一緒に連れて行き その必要はないと思っていた 

すっかり日も暮れて ドンと空が響いた

「おや 花火大会が始まったようだ さあ肉を焼いていくよ」花火大会が始まると同時にバーベキューも始まった なぜそうしたのか

私は2時間もクーラーもついていない二階の部屋から時折打ち上げられる花火をみない 私の狙いは花火大会がクライマックスの時に観賞するからだ  


私達に ほろ酔いと月下の宴が良い気分にさせてくれた 普段あまり笑わない母親もにっこりと笑い楽しそうだった

「もうお腹がいっぱいだね おっと8時30分か 花火大会もクライマックスに近づいてきたから 君たち二人は先に二階に上がって花火をみてきてよ あとでいくからさ」

私はあらかじめ二階の部屋から花火を観賞しやすいよう ソファー、扇風機を置き カーテンそしてサッシも取り外した もちろん蚊取り線香も焚いておくことは忘れていない


二人は二階へ上がり花火を見に行った

私はその隙に 後片付けをした 花火を見終わってから片付けをさせるなんて… 相変わらずやさしい夫なんだと自賛した


   
私は驚き片付ける音を消した

【だ、だれだ!】


誰もいないはずの一階から物音がした


外で片付けをしていた私は背筋が凍りついた


本当に凍りついたように身動きが取れなかった


私は目だけを左右に動かし何か武器になるようなものも探した 

だが何もない 


【そうだ 玄関にまわればホウキがある】

ゆっくりとそして音もなく 玄関にまわった


ホウキを手に そっと玄関を開けた


【くそっ 大胆にも電気をつけやがった】


私は想像した 

犯人は恐らく二人組だ雰囲気でわかる 

リビングにはマントルピースがあり 

そこに妻の宝石箱がある 

その音から犯人はそこをあさっている 


【犯人が1人だろうが2人だろうが 刃物を持っていたら勝ち目なんてない 二階に上がって 妻たちに知らせなきゃ】と向きを変えた瞬間


リビングの扉が開いた

ガチャっと…


【つんだ しんだ おわた】


上品ぶってた私が 崩壊した


きやあああああって言う準備が整った


「あんた なにしとるん?」


「な、なにて お、お前こそなんで下におんねん」


 「今グクッてみたら今年は30分早く終わるんやて」


「んな あほな」 


鳩みたいに豆鉄砲くらってしまったワシは


こいつの言ってることがわからんかった


気を取り直し


「チャウチャウ チャウまんねん ためや ためとるんや それからドドンとやりよんねん」


「あんたいつまでホウキもってんねん 槍をもったマサイ族ちゃうで ぐぐったから見てみ」と嫁はんのスマホを見た

確かに書いてあった

ほんまに書いてあった

      
   8時30分終了って…


わしの心の中の花火が暴発した


盆だけにBONと音をたてて…

絶望の果てに…part2

「何故 紙は私を見捨てたのですか!」


私は嘆き悲しんだ この扉は地獄の門だったのだ


もう出ることは赦されないのかと


僕はロダンの【考える人】のように


考えた


ほとばしるそれは 私にはどうしても許されなかった 私の家は勿論のこと 他でも経験が一度もない 私がこれからの行動の選択肢にさえ入れていない


何故か


私には3つの  嫌  がある


まず一つ目は他人が握る おむすび

二つ目はペットボトルの回し飲み

そして三つ目は  うぉしゅれっ…


愛用している人 製造している方々には

ほんと申し訳なく思っております



飛び散る運  

誰のものかわからない運


その付着したであろう棒が


勝ち誇ったように出てくる


Wi~nと…


ああっ想像してしまった


私は何度も首を横に振りその想像を振り払った


残された選択肢は2つのみだった


靴下かパンツか 


私は迷わず靴下を選択した この靴下はかなりすり減り今日でお別れと思っていたからだ


ちょうどいい それでいい


私は左足に履いている靴下を脱いだ

わたし はだし?


   
わたし~あたし はだし~


わたし~あたし  はだし~♪ 


 ふりそでてしょん~♪



 あかんあかん 革靴と裸足 あわんあわん


これは世間様にバレてしまう


あ、あの人 もしかして と指差される

     
仕方ないパン…


真っ赤なパンツ


こないだ高いお金出して買ったパンツ…


げん担ぎの真っ赤なパンツ…


 これこそあかん!バチがあたる!


私は岩壁の淵に立たされた気分だった

この私に自滅しろと云うのか


私は振り返り上の棚を睨め付けた


だがあることに気が付いた


それはその棚の幅の大きさだ 先ほど見たときトイレットロールはなかったが 奥まで見ていない もしやと思い私は早速腰を浮かせ奥まで覗いた なんとそこにはロールが一つだけあった死角で気が付かなかったのだ私はそのトイレットロールを手に取り強く抱き締め


ありがとう ありがとうと何度も紙に感謝した


だが喜びも束の間 トイレの水を流そうとした

その時である 扉を激しく揺らす者がいる 私のゆっくりとした拍動は早鐘を打ち それと同時にお尻の穴を引き締め そして息を殺した 人の気配は感じられない それもそのはず この場所にこの時間に人はまずは訪れない


「ただの風か?」とそう思った


するとまたドアが激しく揺れ 不意に指先で背中

をすっとなぞられたように 背筋が凍った


そのすぐあとに「おおおおお~!」と低い声がした



私は声帯を振るわさず 息だけで叫んだ

「ひゃああああああああああ~!」


仕草も カマ っぽかった



いや待てよ 私のような境遇にいる人ならば

私もそうしたかもしれない 私は深呼吸で荒くなった呼吸と恐怖を鎮めた


【ドアの振動が止まった チャンスだ】


私は満を持してトイレに【先に入っているのですよ】の合図をだした 


そうドアを2回ほどノックして…


するとまたドアが激しく揺れた


「ぎやああああ」と迂闊にも生声を出してしまった


「は、は入ってます!」と言ったが

返事がない もう一度大きな声で「入ってます!もう出ます!(もううんちはでたんですが…)」 と声を荒らげた  


私は急いで下着とズボンを穿こうと腰を浮かせた

確かに拭いた しつこく拭いた 私は間違いなく拭いた  だが明らかに違和感があった…


私は  そ こを  注視 した 私は目を疑った 

「こ、こんなことが…」


【最後に拭き上げた時に確かに便器の中に落としたはず】 


だがその原因は即座に解明された


【あの時だ!間違いない】

最後拭きの時にちょうどドアが激しく揺れ

 私は驚きお尻の穴をきつく締めた 

 その紙の一部が穴にガチホールドされてのだ 


それは くす玉を割った時のように1本だけ垂れ下がっていた



私は慎重に慎重を重ね親指と人差し指で紙を引っ張った そうゆっくりと

そして切り離すことに成功し急いでパンツ そしてズボンを穿きドアノブの鍵を開けた


そこにはもう誰もいなかった何事もなかったかのように



ただ降りしきる雨と不気味に風の音だけが聞こえていた



あのドアを揺するのは誰だったのだろう


不思議な体験をした





だから風だって…